癒着をはがした際に腸管損傷

万波医師に3千万賠償命令 がん手術後に患者死亡
http://mediajam.info/topic/425601

 判決理由で大島真一裁判長は、万波医師が膿瘍を探して手で小腸の癒着をはがした際、不注意で腸管に穴をあけたと考えられると指摘。「腸管を傷つけて腹膜炎を併発し多臓器不全に至った」と手術ミスと死亡との因果関係を認めた。


がん、特に下腹部(大腸)のがんでは、腸管を切ったり貼ったりするのはごく普通ですが、腸管に穴があくと(穿孔といいます)手術が汚染、つまり腸内の汚物でお腹の中(腹腔)がよごれ、感染症を引き起こしてしまうことがあります(→膿瘍、腹膜炎など)。


手術の終了時に生理食塩水等でよく洗浄するのですが、わずかな漏れや穴があると、やはり感染がおこってしまうこともあるようです。


もし癒着がなければ、先生も不注意で腸管に穴をあけることはなかったのではないかと推測されます。


こんなことが起こらぬよう、開腹手術の際には患者さんのその後の人生(長いですから、再び何かの手術でお腹を開けることがあるかもしれません)をよく考えてあげて、癒着防止材を使用していただけるといいのではないかと考えるわけです。

日本発の新規癒着予防薬が有望か

兵庫医大、術後癒着を5分の1に・・・動物実験で成功
http://osaka.yomiuri.co.jp/eco_news/20080317ke02.htm

胃や腸などの手術の後、患部が周囲の臓器や組織にくっつく「術後癒着」を、肝細胞増殖因子(HGF)で防ぐことに兵庫医科大の中西憲司教授(免疫学)らが動物実験で成功した。癒着は手術の8割前後で生じ、腸閉塞(へいそく)など重い症状を招く場合もあり、予防薬として5年以内に臨床試験を始めたいという。17日付の医学誌ネイチャー・メディシン電子版に掲載された。
(中略)
 中西教授らは、ウイルス増殖を防ぐたんぱく質の一種「インターフェロンγ」がPAIの活発化に関係していることを発見。インターフェロンγを抑える働きを持つHGFをマウスに皮下注射すると、癒着が約5分の1に減った。手術の直前直後に1回投与するだけで効果があるという。


手術の直前直後に1回投与するだけ・・・これは画期的ですね。
しかし動物実験から臨床開発を経て、新薬になるまでにはまだまだ気の遠くなるような時間がかかります。癒着という現象自体、まだまだよくわかっていない部分が多いですし、薬となれば有効性と安全性をどう評価していくかという検討も、非常に難しい問題でしょう。


しかもインターフェロン、HGFなど比較的Generalなたんぱく質であれば、副作用としていろいろな症状、現象がいやでも想像できてしまいます。皮下注射というのも、実際の臨床応用とはかけ離れておりますから、先はやっぱり長いのです。


とはいえ、日本発の新薬は今後ますます減少していくでしょうから(理由はまた別の機会に)、今回の発見をぜひ迅速に実用化へ向けてほしいものです。Nature Medicineという有名科学誌に発表されたということは、海外の製薬企業なども注目しているかもしれませんね。


国内でも海外でも、より早く安全な薬が生まれるのであればどこが進めてもいいと思います。


研究開発、臨床開発はぜひGlobalな視点で戦略を立ててもらいたいです。

骨折部位の癒着は問題になります


225万円支払いで和解 山形県強化選手、医療過誤訴訟
http://bridalandmedical.blog.shinobi.jp/Entry/21/

手術で右脚が変形し、山形県スキー連盟の強化指定選手を外されたとして山形市の女性(20)が上山市の病院を運営する医療法人に約916万円の損害賠償を求めた訴訟は、10日までに病院側が225万円を支払うことで仙台高裁で和解が成立した。

山形地裁は昨年8月、病院に過失はないとして女性の請求を棄却し、女性が控訴していた。
訴えなどによると、女性は2002年1月、スキー中の事故で右脚を骨折し、被告病院で手術を受けた。退院後、右脚が外側に反った形で骨折部位が癒着した上、部位固定のボルトが飛び出していることが判明。別の病院で再手術を受けた(以下省略)。


骨折部位が癒着すると、最悪訴訟問題に発展してしまうのです。

整形分野でも多くの先生方から、癒着防止についていろいろな要望・意見が出されているようです。一部の大学等では、腱や筋、骨の癒着防止についてもアクティブに研究されています。


今後、高齢化が進みこの分野の病気や手術は間違えなく増加してきますから、癒着の防止策を講じないと、訴訟問題に発展するケースも増えてしまいそうですね。


新規の有望な癒着防止剤を期待したいです。

医療はお金で換算しなければならない?

【ゆうゆうLife】編集長から 夢の抗がん剤のコスト
http://sankei.jp.msn.com/life/body/080307/bdy0803070822000-n1.htm

医療の世界でお金の話をすると、「命をお金に換算するのか」と批判されがち。しかし、先日、製薬会社の記者説明会に行ったら、薬の効果に加えて、国民が負担する費用の解説まであった。

 説明会のテーマは抗がん剤ハーセプチン」。あるタイプの乳がんに効く画期的な薬だ。手術後に使用することで再発が半減することが分かり、保険の適用が広がった。

 説明会で福田敬東京大学准教授は「医療経済的には、ハーセプチンを使うと、1人の命を1年救うのに260万円かかる」と指摘した。英国では、ある治療の費用を国が負担するかどうかの目安は、年額約500万〜750万円が上限。米国では約500万〜1000万円。ハーセプチンはコスト面でも見合うというわけだ。

 こんな話が出るのは、ハーセプチンが高い薬だからだ。投与は1年間継続で、薬代は年間計約300万円。患者の負担は一般に月10万円を割るが、残りは保険財政、つまり国民の負担。国全体で増える医療費は年に約100億円超といわれる。医療費全体の3000分の1だ。


こういう話、最近特に医薬品・医療機器の新規承認や薬価・保険収載においては重要な話題。昨今新聞や雑誌などマスコミでも盛んに取り上げられているが、社会保険の財源はもうないのです。既得権益者たちが守っている分は別として、国民皆保険を今後も死守できるか否かは、とにかく医療費削減が絶対条件なのです。


となると、当局の中でも保険・医療費担当の経済課、医療課といったところの方々は、誰がどう言おうと医療費の削減は当然の成り行きであり、新薬・新医療機器が価格上昇するということは「ありえない」わけです。


画期的新薬が今後もガンガン輸入され、医師からの要望もますます高まるため、保険がおりることになるのでしょうが、既存の治療法や薬・機器に比べての経済性メリットがない場合は、国から承認自体がおりないということも、十分考えられます。


医療業界もどんどんアメリカナイズされていっている一端の気がして、非常に危機感を感じざるを得ない事実ですね。

医療費削減の目玉対策とは

この日記では、手術後の合併症のひとつである「癒着」について情報交換をすることを最大の目的とします。


特にお腹を開ける手術(開腹手術)の場合、術後の実に93%ものケースで癒着が起こっているということがわかっております(1)。その中でもひどい場合は、お腹の痛み、水分や食べ物が腸を通らないなどの症状が発生してしまい、結果的に入院期間が延びてしまったり、シビアな場合は再手術(またお腹を開ける)をしなければなりません。


一方、手術後に症状がでなかったとしても、近年の高齢化、長寿化により、思いもかけない再手術の機会が増加しています。交通事故、がんの再発、あるいは女性でしたら帝王切開(お腹開けますよね)などで、開腹経験があった場合、本当は損傷した臓器をすぐ処置できればよいのですが、もしも癒着が起こっていたならば、まずはこの癒着を切って取り除く(剥離)作業をしなければ、目的の臓器にたどり着けないのです。最悪の場合、癒着を取り除く際に誤って血管を切ってしまうこともあり、この場合予期せぬ出血というリスクがあります。


帝王切開のケースは最近多くなっていますが、第2子も帝王切開での出産ということになれば、当然1回目の帝王切開時に癒着が起こっていた場合、2回目の際に癒着がシビアであれば、赤ちゃんを取り出す前に癒着を剥離するという時間的ロスが発生します。ここで時間がかかりすぎると、赤ちゃんに対する後遺症等のリスクが増加してしまうのです。


癒着が発生するのはお腹の中だけではありません。心臓と心膜、胸腔、脊椎や手の手術後など、体のさまざまな部分での手術後には何らかの癒着が発生し、多くの場合はあまりよいことではないことがわかっています。わかっていながら、決定的な治療法・防止法がないことで困っているケースも少なくないのです。


癒着を防止すれば、患者さんの苦しみも軽減できますし、あるいは再手術時の癒着剥離にかかる余分な時間のロスや、出血のリスクをなくすことが可能です。そうなると、余計なリスクの軽減やわれわれのQOLの向上、さらに医療機関としては必要のない手術の軽減、つまり不要なコストの削減にもつながります。さらに上からの視点で考えると、手術・入院費用や病院コストが削減されることで、社会保険による医療費の削減まで可能となるのです。


国家的な社会問題のひとつである医療費増大に歯止めをかけるアクションプランのひとつとして、癒着防止策をぜひ早急に検討し、実行していくために、この日記を始めることにします。